Running Leanで学ぶ顧客インタビューの手法
Running Leanという本は、リーンスタートアップの著者違いの続編という本です。
この本はリーンスタートアップで書かれた様々な手法を実際に実践してみた上で成功する具体的な手法を解説した本で、
エリックリース*1氏から「最先端の起業家演習」と評されるように、起業家のノウハウが詰まった良書です。
Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)
- 作者: アッシュ・マウリャ,渡辺千賀,エリック・リース,角征典
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2012/12/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 3人 クリック: 14回
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この本はビジネス書という位置づけながら、とにかく実践的な内容なところが「技術書」と似ています。
技術書は実際に書かれていることを真似して手を動かしながら読むのが最も効果が高いものです。同様にこの本も何かのサービスの企画を実践しながら読むと効果が高いと思います。
さて、この本はそれ程分厚くないのですが内容が濃いので、このエントリで全てについての良いまとめはできないと割り切ります。
本書の内「顧客インタビューの手法」について、実践中の自分の意見も含めてまとめたいと思います。
顧客にインタビューする意義
リーンスタートアップでは、顧客との会話および顧客からのフィードバックをとても重視しています。
その理由は以下の文章に表れています。
高速に学習するには、顧客と話をすることです。
分析したりコードをリリースしたりするのではなく、人と話をするのです。
リーンの主題は「学習に必要なもっとも小さい事をやる」ということであり、顧客のニーズを引き出すために最も小さい事とはプロトタイプを見せることよりも「インタビュー」なのです。
この辺が、我々エンジニア上がりだと間違いやすいポイントだと思います。
どうしてもアイデアを具現化するためにプロトタイプを作る事に着手してしまいがちです。
サービスを開発するときモノを作るよりも先に顧客インタビューを上手く実践することが、リーンスタートアップの方法論の神髄かなと思います。
「アンケート調査」は適切か?
顧客からのフィードバックにはアンケートやフォーカスグループなど、いくつか手法があります。
ですがRunningLeanでは、サービスの立ち上げ段階では「対面での顧客インタビュー」を最重視しています。
アンケート調査やフォーカスグループも不要です。
アンケート調査は正しい質問があることを前提にしています。
フォーカスグループの問題は、すぐに集団思考を形成してしまう点です。
顧客インタビューとは何が分からないのかさえ分からないことの探求です。
アンケートは定量分析のためには利用するとよいとの記載が後にありますが、顧客へのアプローチの最初から使うべきではないとのことでした。
プランAは役に立たないという前提に立つべき
初めて顧客インタービューをすると耳を覆いたくなるような結果になることがしばしばです。
ここでへこたれるべきではありません。
そもそもが、
起業家の多くは、強いビジョンとそれを実現するプランAを持っているがプランAは役に立たない。
というものなのだという前提に立つべきです。
顧客インタビューの副次的な効果
「顧客インタビュー」ということを意識せずに、自分のアイデアを周囲の友人や同僚に話してる時には、よほど癪に障るようなアイデアでない限り「いいね!」といってもらえます。
きちんとした「インタビュー」の形式をとらないと、解決すべき具体的な課題と付き合わせないので、それほど深く考えずに「いいね!」と言ってくれるのではないでしょうか。
しかし、本書で記載されている形式できちんと時間をとり対面インタビューをすると、顧客に対して自分の課題を意識してもらい、顧客であることを自覚してもらうような儀式的な効果があると思います。
それ故、非常にへこまされるんですけどね。
対象にすべき顧客は?
「顧客インタビュー」の顧客とは誰を選ぶべきなのでしょう?
それは対象領域に具体的な課題をもっている人です。課題と付き合わせることで、よりシビアに考える事が出来る人です。
そして顧客は、以下のような性質を持っています。
顧客はあなたのソリューションに興味はない、興味があるのは顧客自身の課題だ。
-デイブ・マクルーア 500 Startups 社
ソリューションをごり押しするのはタブーですね。
顧客インタービューの実践
顧客インタービューに慣れないうちは、顧客から出た言葉そのものが答えだと思って信じ込みやすいのですが、本書にある下記のような言葉にハッとさせられます。
顧客が全ての答えを持っていたとしても、何が欲しいのかを聞く事はできない
・顧客に欲しいものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう -ヘンリーフォード
・欲しいものを知るというのは顧客の仕事ではない -スティーブジョブス
「顧客を観察する」という言葉が、リーンスタートアップに出ていました。
顧客インタビューでも顧客を観察することが大事なんですね。
インタビューの準備
本書ではインタビューの具体的な進め方や、聞くべきポイントもしっかり具体例を出して書かれているのでまずはこの通りに進めてみると良いです。
例えば、「6章 インタービューの準備」では下記のようなテーマでの記述があります。
・直接面会してインタビューしましょう
・知り合いから始めましょう
・誰かと一緒にいきましょう
・中立的な場所を選びましょう
・十分な時間をもらいましょう
・謝礼や贈り物をしないようにしましょう
・インタビューを録音しないようにしましょう
・インタビュー後すぐに文書化しましょう
・30−60人にインタビューしましょう
赤字の所などは、ちょっと顧客インタビューの敷居をさげてくれる記載に思えて嬉しかった部分です。
顧客インタビューの台本
次の7章の「課題インタビュー」はインタビューの台本まで用意された、非常に具体的な内容です。
その台本のアウトラインだけ以下に抜き出してみます。この通りやってみるのも良いと思います。
- 歓迎 インタビューの流れを説明する
- 企画を思いついた経緯。目的が売りつけることではなく「学習」であることを伝える。
- 顧客情報の収集 顧客情報に関する基本的な質問
- 例えば「お子さんは何人いらっしゃいますか?おいくつですか?写真をオンラインで共有しますか?」など
- ストーリーの伝達
- 解決しようとしている課題の説明と、共感できるかどうかの問いかけ
- 課題の優先順位
- 課題を1−3つ選んで、見込み客に優先順位をつけてもある。
- 顧客の世界観の探求(課題の検証)
- (インタビューの中心)台本がない事が最高の台本。
- インタビュー相手に、現在の課題の対処法を聞く。黙って聞く。
- ソリューションを押し付けない。
- 別の事を話しだしたらそれも詳しく話を聞く。
- 絶対に必要な課題なのに積極的に解決使用としていない場合など嘘をつくことはある。
- まとめ
- 顧客へのフックとお願い
中でも「顧客の世界観の探求(課題の検証)」がインタビューの本題です。
特に私には「5.2 インタビュー相手に、現在の課題の対処法を聞く。黙って聞く。」という部分が響きました。
代替品を語る顧客から得られる情報からは少なくとも
「解決して価値のある問題か?」
ということを知る事ができるのです。
「無駄なモノ作りをしてしまわない」
というリーンの原則の中で、とても重要なポイントだと思います。
その他の記載
Running Leanについては、他にも「リーンキャンバス」「ビジョンのテスト」「MVP」など為になるテーマがいくつもあります。
これらについては、本書を読んでもらった方が良さそうですね。
Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)
- 作者: アッシュ・マウリャ,渡辺千賀,エリック・リース,角征典
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2012/12/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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*1:リーンスタートアップの著者